月給制の成り立ち(月平均の所定労働時間)

給与,報酬

新型コロナウイルス騒動はしばらくは収まる気配はありません。この緊急時に対応しなければならないことも重要ですが、私がこのブログを通じて読者に伝えていきたいことは労務管理のレベルアップによる経営管理の強化ですのでそろそろ通常のテーマに戻していきたいと思います。

 

月給制の正しい理解

私が起業独立してこの4年半の間に30数社の顧問先の制度設計に向き合ってきて驚かされたことがあります。それは給与テーブル表を設計するに当たって月平均の所定労働時間を把握することが必要となるのですが私から顧問先に「貴社の年間労働日数(年間休日数)は何日ですか?」と尋ねるとまともに認識できておらずに「カレンダー通りの休日です。」と答えることが非常に多いことです。

「これのどこが問題なのでしょうか?」「そもそも国民の休日は当然お休みになるのではありませんか?」このようなリアクションが返ってきます。

 

我が国の法律では雇用契約に基づく賃金は『労働時間に基づいて計算』されます。

そしてその労働時間には割増賃金の必要の無い【所定労働時間】と割増賃金の必要となる【法定外労働時間】とを明確に把握して給与に反映する必要があります。

 

これとは別の切り口で、そもそも『月給制』の給与とはどのようなものでしょうか?

大半の正社員(無期雇用契約の労働者)の場合の給与は『月給制』でしょう。『月給制』とは、月によって会社の定めた労働日数が増減しても給与は変動させずに固定的に支払われる制度のことです。例えば暦日で28日しかない2月の労働日数が18日で暦日が31日の3月の労働日数が21日であっても同じ額の固定賃金が支払われるのが『月給制』です。

 

これに対して、労働した日数に応じて給与が支払われるのを『日給月給制』と呼びます。例えば日給1万円の労働者の場合上の例でいえば2月は18万円・3月は21万円が賃金となります。

 

割増賃金を計算するには

月によって異なる労働日数(月の所定労働時間数)であっても同じ固定賃金が支払われるのが『月給制』の給与です。

では、割増賃金(分りやすく言えば残業代)は「どの時間数を超えたときから」「いくら支払えば」良いのでしょうか?それを明らかにするのに必要となるのが月平均の所定労働時間です。

 

月平均の所定労働時間は下記の算式で導き出されます。

 

1日の所定労働時間数×年間労働日数÷12カ月

 

具体的数値を当てはめてみましょう。

1日の所定労働時間数:8時間×年間労働日数260日÷12カ月=173時間20分

この場合は173時間20分が月平均の所定労働時間となり、『月給制』の従業員の月額固定賃金が25万円のケースであれば、

25万円÷173時間20分=1,443円がこの人の『時給単価』となります。時給単価を算出するにあたって給与の額から除外する手当の種類が労基法で定められていますがここでは詳しいことは割愛します。

通常の労働時間制の場合、1日8時間・週40時間を超えて勤務した時間は割増賃金の支払いが必要となりますので、この人が仮に月に20時間残業した場合では、

1,443円×20時間×割増賃金率:125%=36,075円の割増賃金(残業代)が支払われることになります。

 

月平均の所定労働時間を意図をもって設定する

これは分りやすく比較できるようにした『時給単価』の違いです。

A社は1日の所定労働時間数:8時間×年間労働日数260日÷12カ月=173時間20分

B社は1日の所定労働時間数:7.5時間×年間労働日数240日÷12カ月=150時間

両社とも同じ額で『月給制』の従業員の月額固定賃金を25万円とします。

 

A社の従業員の『時給単価』は上記で算出した1,443円となりますが、B社の従業員の場合では、

25万円÷150時間=1,667円が『時給単価』となります。

B社の従業員が月に20時間残業した場合では、

1,667円×20時間×割増賃金率:125%=41,675円の割増賃金(残業代)が支払われることになります。(A社に比べて+5,600円増額)

 

つまり同じ月額固定賃金が25万円であっても、それぞれの従業員の労働の対価たる『時給単価』で比較するとA社の従業員に対してB社の従業員は15.5%高い賃金を支払っていると同時により高い残業代を支払っているのです。

 

いかがでしょうか?

皆様の会社ではなんとなく年間休日数(年間労働日数)を決めてませんか?

または、年によって年間休日数(年間労働日数)が変わってはいませんか?

そもそも月平均の所定労働時間を把握した上で労働日数や給与計算してますでしょうか?

 

一見すると、休日とは「賃金の発生しない日」と思われがちですが正しく月給制の賃金を認識しなければいたずらに高い『時給単価』で従業員を雇用することになります。

 

採用の競争力という観点から見ると、年間休日数は105日よりも125日の方が採用競争力は高くなるでしょう。しかし、その対価として同じ賃金額であっても15.5%高い『時給単価』を支払うことになるという観点を忘れてはなりません。

それぞれの業界や同業他社と比べて年間休日数(年間労働日数)と募集賃金額の両方をバランス良く見ていく必要があるのです。

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