誠実労働義務

労働管理

近年、労働基準法を始めとする労働者の権利を声高に主張・要求する傾向がとても強くなったように思われます。

この傾向は第一義的にはとても良いことであり「労働条件の最低限度を定めた」労働基準法を遵守することは使用者側にとって本来ならば当たり前のことが当たり前ではなく、使用者と労働者の立場や力関係はどうしても使用者に偏りがちになることを是正する動きとして歓迎すべきことです。

しかし、私が顧問先の労務トラブルの解決のお手伝いをするような場面においても、近年は権利の主張が際立っていて労働者がなすべき義務を満足に果たしていないいびつなケースが多く見受けられるようになりました。

今回のブログでは、雇用契約の意味合いを問い直し、健全な雇用関係が成立する必要絶対条件である『誠実労働義務』について解説したいと思います。

 

雇用契約とは?

『誠実労働義務』という言葉については耳慣れない方も多いかと思われます。

その前に、そもそも雇用契約とはどのようなものでしょうか?

私たちが就職して働くという行為は「雇用契約が成立している状態」と表現することができます。

雇用契約とは、労働者がその労働力を提供して使用者がその対価として賃金を支払うことを始めとして甲乙(使用者・労働者)双方が法的な求めに則って労働条件を明らかにしその内容について合意した内容を書面化し、その内容を確認し合えるものとすることです。

「うちの会社ではそんな面倒なことしてないよ?」

「そもそも、労働条件通知書を交付すればこと足りるんでしょ?」

このような声をよく聞きます。

確かに労働基準法では雇用契約を結ぶ際には労働条件通知書を交付することを求めており、かならずしも雇用契約書を交わしなさいとはなっていませんのでこれらの声はあながち間違いではありません。

しかし、契約の大原則に立ち返ってみれば、契約に関わる当事者間の権利・義務を契約書に表して記名・捺印の上で同じものを互いが持ちあうことは極めて当然のことであり、契約書を取り交わさない契約は不用心でしかないことは理解できるものと思われます。

雇用契約を結ぶ入り口のところ(入社時)で契約を曖昧にしている。それが実態なんですね。

私の顧問先では、賃金体系も一新するだけでなく月平均の所定労働時間の見直しや変形労働時間制の導入など抜本的な就労条件を見直すことが多いので、その際には既存の従業員との間で『雇用契約書』を取り交わし直すことが多いです。

『雇用契約書』では、法律に定める事項などの必要最低限の事項のみを記述しますので、使用者と労働者の権利・義務は就業規則で詳細を規定することになります。

 

『契約』の意味合いを改めて考えてみる

私たちが企業に採用され働くという行為は「雇用契約が成立している状態」であることを説明してきました。

では、『契約』の意味合いを改めて考えてみましょう。

『契約』の当事者はここでは使用者と労働者の甲乙2者間で取り交わされるものです。この2者の間には互いに義務と権利が生じることになります。

まず、使用者にはその労働者を所定労働日数・所定労働時間拘束し与えた職務を遂行することを求める権利を持ち、その労働の代償として賃金を支払うことが義務として発生します。

一方で労働者は、求められる職務を通じて使用者の利益に資するための『誠実労働義務』が求められ、その対価として所定の賃金を得る権利が与えられます。

この役務の提供に対する賃金の支払い以外にも様々な法律の定めにより使用者側にはたくさんの義務が課せられることになり、ともすると労働者側は権利に守られて本来果たすべき義務がおろそかになることが頻繁に見受けられるようになっている。それが現状の雇用状況ではないでしょうか?

 

『誠実労働義務』の重要性

労働者が本来果たすべき義務とは、『誠実労働義務』と言い表すことができます。

『誠実労働義務』とは、単に所定労働時間に定められた場所に赴き作業をこなすということに留まらず、雇用契約の相手である使用者の事業目的を実現させるために、組織の秩序を守り指揮命令に従うことが当然に求められるということです。

近年、労働者の権利意識の高まりや法的手段を行使する敷居が低くなってきたこと、労基署の行政指導や取り締まりが以前より厳しくなっていることなどもあり、労働者から企業に対して権利行使のための要求が年々強くなる傾向にあります。

また、このような傾向の下で企業側は声高に権利を主張する労働者をいたずらに恐れる傾向があります。

このように労使の関係がこじれてしまった状態を放置しておけば組織秩序の低下や業績低下を招くことになり、いずれは「山﨑顧問、どうしても**さんをクビにしたいのですが…」というような状況に追い込まれてしまうのですが、この問題点の根本にあるものは何なのか?を突き詰めていくとこの『誠実労働義務』を置き忘れた労使関係に行き着くことが大半なのです。

労使は互いに権利だけを主張するのではなく、求められる義務を誠実に果たすという原理原則に改めて立ち戻る必要があるのです。

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