給与体系の合理性

給与,報酬

私が顧問先の依頼に応じて人事評価・賃金制度を設計するにあたって現状の給与体系を必ずチェックします。

給与体系は企業ごと業界ごとに異なり一様ではありません。ここでは給与を構成する諸手当の意味合いや合理性・合法性そして時代環境に合致しているか?などを見ていくのですが、企業の歴史が長くなってくるとそれらの諸手当が「いつの」「どのようなニーズに応じて」設定されてきたのか?が現状や今後の労務トレンドとマッチしていないことが良く見受けられるのです。

せっかく人事評価・賃金制度を見直すのですから、給与体系にもメスを入れて合理的で合法的な時代のニーズにも合致したものに見直すことが必要だと私は思いますし、機械的に評価の仕組みだけを構築して収めればそれで成果が出るなどとは思えないからここまで手を入れるのです。

 

廃止していく諸手当のトレンド

昨今の給与体系のトレンドは年功給から能力給・成果給への変化に応じて個人の能力や成果に関わらず支給される性格の『属人給』が無くなっていく傾向が強いように思われます。

『属人給』とは、例えば「家族手当」や「住宅手当」などが代表的なものでしょうか。

従業員の立場からすれば「家族手当」や「住宅手当」などの生活コストが増える要因に対して企業が賃金で補填してくれる制度はありがたいものでしょう。

しかし、年功給から能力給・成果給に変化するということは見方を変えれば経営家族主義的な固定賃金の存在を否定することになってきます。給与はあくまでも労働に対しての対価であり、これまでの経営家族主義的な『属人給』は給与では無く福利厚生的な観点から再設計されるべきものに変わってきていると思われます。

『属人給』には福利厚生的なものの他にも従業員個人が保有する公的資格に対して支給される『資格手当』も挙げられます。

『資格手当』の内訳をよく見ていくと、その職務を遂行する上で必要不可欠な絶対要件として求められる資格を問うているケースと、「保有していることが望ましい」資格のケースが混在していることが大半であり、更には『資格手当』個々の金額の妥当性や合理性、給与全体に占める割合などの正当性が誰にも説明がつかないことが多く、場合によっては「保有していることが望ましい」資格を多数保有していて『資格手当』は多額に達しているものの実際の業務にはほとんど貢献していないケースさえ見受けられます。

私が顧問先の給与体系を見直す際には『資格手当』を残すにしても必要最低限に留め、職務を遂行していく上で必要不可欠な資格については職能等級制度の中で上位等級に昇格する際の要件の一つにその資格を取得することを織り込むように設計しています。

これらの見直しの背景には、「職務の遂行に必要なもの」以外の『属人給』は労働に対しての対価である給与からは除外していくという考え方があります。

 

新たに取り入れていく諸手当

言うまでもなく給与体系はその企業や業界の特性が表れたものであり全業種的なトレンドというものは無いのですが、私が顧問先の抱える様々な問題解決に繋げるための方策として良く取り入れている諸手当がいくつかあります。

そのひとつとして『固定残業手当』があります。

手当の名称としては例えば「職務手当」などとして直截的な表現とはしていませんが、ある程度の時間は所定労働時間を超えて働くことが常態化している職種(営業職など)に対して月15時間から45時間くらいの範囲で残業の有無に関わらずあらかじめその分の超過勤務手当相当額を給与に組み込んでしまう手当となります。

この『固定残業手当』にはメリットもデメリットも多く、その設計や運用には注意が必要でありこの件を掘り下げて別の機会にこのブログで解説していきたいと考えていますが、私がこれを導入する顧問先ではそれ以前は残業見合い手当として一律固定の金額を支給していて実際の労働時間にかかわらずこの手当の支給をもって残業代支給を果たしていると勘違いしているケースへの対応策としていることが多いです。

『固定残業手当』の他にも、事業展開を広く行い事業所が広域にわたる企業の給与体系に『地域手当』を組み込むことが多くなっています。

『地域手当』とは月額固定賃金のうちの一定の割合(20%前後)の額を勤務地(または居住地)に応じて差をつけて支給するものです。例えば月額固定賃金が25万円の東京都の事業所に勤務する従業員の『地域手当』を5万円として、同じ等級の福岡支店に勤務する従業員の場合は『地域手当』を4万円として月額固定賃金が24万円とするような運用になります。

一見するとこの格差は不合理のようにも見えますが、我が国では最低賃金法に基づき毎年10月に最低賃金を都道府県別に見直してその遵守をきつく求めているという実態があります。

この最低賃金法の主旨目的は「地域による生活物価較差を賃金で是正する」ものです。この生活物価較差を更にブレークダウンしていくとその意味するところは地域による居住コストが大きく作用していることに気づきます。

一見すると『地域手当』は『属人給』のようにも見えなくはないのですが、能力給・成果給をベースとした労働に対する対価たる賃金で生活を賄う以上、その勤務地や居住地の違いによる居住コストの違いを無視することはむしろ逆の意味で較差となることになるのです。

以前、私の顧問先の某エステチェーン企業において、未経験者の募集賃金が新宿店でも那覇店でも同じ20万円であったときは那覇店では求職者が有り余り新宿店ではいくら募集を掛けても応募者がいないという状況を解決するために『地域手当』を導入したことがありました。

 

不利益変更は行わないこと

『属人給』を廃止し、現状や今後を見据えた労務トレンドや労働法規にマッチした諸手当を新設していくのが大筋での傾向になりますが、給与体系を見直す際には従業員に対して充分な説明を行い必要な手続き(賃金規程の見直し・労使協定の締結・給与計算ソフトの変更等)をしっかりと行う必要があります。

また、もうひとつ大事なポイントとして給与体系の変更によって従業員によって有利・不利が生じないようにすること。いわゆる不利益変更は行わないことが重要となります。

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