今国会で成立する労働法規の一つに70才定年制があります。
正式には高年齢雇用安定法といい、まずは2021年4月に努力義務で施行されます。しかし、施行後数年ののちには確実に義務化が進められます。なぜなら定年年齢を70才に引き上げることが目的では無くて国の目的は公的年金の支給開始年齢を70才に引き上げることこそが真の目的であって、70才定年制はそのための手段でしかないからです。
そしてそのターゲットは団塊ジュニア世代。
現在40代後半の団塊ジュニア世代の年金支給開始年齢を70歳に引き上げないと公的年金の収支が全く合わなくなるからです。
これがどのようなことなのか?当事者たるアンダー50才の労働者や大半の経営者も自らに降りかかる影響を理解していません。
まず、労働者サイドに立ってみましょう。
高卒・専門卒・4大卒と入職年齢はまちまちですが20才で入職した人は70才で公的年金が支給されるまでなんと50年間働くことになります。
50年間!
気が遠くなるような時間であまりピンと来ないでしょうか?
しかし、好むと好まざるを得ず公的年金に頼らなくても晩年期の生活に心配のないごく一部の人を除けば誰しもが50年間前後働くことになるのです。
ところで皆さんは自分自身の能力開発や新たなことへのチャレンジ性への意欲は高いですか?
私の見るところ残念ながら大多数の人々は昨日と同じことをして今日を過ごすことに安住し新たな能力開発やいままでやったことの無い仕事への意欲は高いようには見えません。しかし、営利目的の事業会社で働く限り企業の維持発展のためには増収増益、すくなくとも増益が保てなければ昇給はできないのは自明の理です。すなわち労働者サイドにとっての70才定年制とは生涯学習を継続し進化し続けることが求められることを意味しています。
それができない者は?
今後の労働経済環境においては代替可能な未熟なスキルしか持ち合わせない労働者は年収300万円程度しか得られなくなることでしょう。その理由はこのブログで様々な角度から解説していきます。
一方で、経営者サイドに立ってみると、
20才から70才までの50年にわたって年功賃金で給与を上げ続けることは当たり前ですが不可能なことです。
これまではどうしてきたのか?
役職定年制?
そもそも定年まで残っている従業員は少ないからそれほど問題は感じてなかった?
大半の中小企業はそんなところでしょうか。しかしそれは離職者が多くいてもかつては代替可能な人材が労働市場から調達がそれほど難しくなかったからで、すでに現状でも即戦力人材の補充が簡単にはいかない。新卒者も大手志向で自社には目を向けてくれない。社員の年代別構成比が中高年に偏りいびつになっている。それが実態ではないでしょうか?
今年、大手企業の賃上げに大きな出来事がありました。
昨今の新型コロナウイルス対応の報道で紛れてしまい目立ちませんが、日本のリーディングカンパニーであるトヨタ自動車、そして金融機関のリーディングカンパニーである三菱UFJ銀行が揃ってベアを廃止したことです。
この意味はとても大きい。
ベア=ベースアップとは能力や成果に関わらず従業員が一律で享受してきた賃上げのことでベアがあることが当たり前だと思ってきた労働者にとって大きな転換点になる出来事だからです。
ベアの廃止。それこそが年功賃金に見切りをつけて発揮能力と成果で賃金が決まる実力主義社会へと舵を切る変化の始まりだからです。
昨年から目立ち始めた黒字企業のリストラの加速。
今年はこれに新型コロナウイルスによる未曽有の不況で更にリストラが間違いなく加速します。その目的は年功賃金で給与が高止まりしてその発揮能力と成果に賃金が見合わない中高年社員をこのまま70才まで雇用するよりも退職金を上積みしてでもいま退職させることが起業の存続のためには望ましいと判断しているからです。
さあ、あなたが勤めている会社もあなたが経営している会社も今の給与と働きぶりが合致していると自信を持って言えますか?
70才定年制とは年功賃金の終焉と発揮能力や成果による賃金への転換を意味しているのです。経営者も労働者も確実に来る近未来の変化に対して今から備えていく必要があるのです。
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