リストラの正しい進め方

時事問題,コラム

リストラは日本では業績不振時に行われる人員整理のことを指す言葉となっていますが本来のリストラとはRestructuringの略語で「事業再構築」を意味します。

そんなことはどうでもいい!今はコロナウィルス騒動で会社存続の間際にありどうしたら生き延びることができるか?が大事なんだ!

そんな切迫した経営者からの悲鳴が私のもとにも数多く寄せられています。

ここでは、綺麗ごとや法の建前論や弁護士たちの言う整理解雇の4要件を杓子定規に述べるのではなく皆様の会社をこの緊急事態から守るためのリストラの進め方について述べていきたいと思います。

 

リストラ(整理解雇)を進める手順は以下の通りです。

 

1.損益分岐点売上高の把握

2.売上高低下見込みの見極め⇔必要となる費用減額の見極め

3.人件費以外の費用削減策の見極め

4.人件費削減額の見極め

5.役員報酬削減額の決定(時限措置)

6.幹部社員給与の削減額の決定(時限措置)

7.一時帰休による人件費削減額の見極め

8.整理解雇で求める削減額の見極め

9.整理解雇の実施

 

手順をご覧になってとても煩わしいと感じたでしょうか?

しかし、これらのことを極めて短期間かつ的確に進めなければ存続できる企業も破綻してしまうかもしれないほどの経済パニック状況の中ではやるか?やらないか?しか選択肢はありません。

では、簡単に順を追って説明していきましょう。

 

1.損益分岐点売上高の把握

あなたの会社では損益分岐点売上高の把握はできていますか?

できている会社であれば、そこから如何に損益分岐点売上高を下げることができるか?(=固定費を削減できるか?)となりますが、できてない会社であれば会社の試算表(損益計算書)の販売管理費および一般管理費と呼ばれる費用の内訳を分析して『変動費』と『固定費』に分類することが必要となります。『変動費』とは売上高に比例もしくは連動して費用が増減する性格の費用で、荷造運賃やクレジット手数料、梱包資材費用などがこれに当たりますが『変動費』という概念自体が管理会計用語であり客観的な基準がある訳ではありませんのでそれぞれの業種や企業によって選定してください。

『変動費』の分類ができたら、売上総利益(粗利益)から『変動費』を差し引いた額が『限界利益』となり売上高に対する『限界利益』の比率が限界利益率となります。

損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率

細かな説明は割愛しますが、これで損益分岐点売上高を把握することができます。

 

2.売上高低下見込みの見極め⇔必要となる費用減額の見極め

『固定費』の占める割合が多い収支構造ほど損益分岐点売上高は高くなってしまいます。業績の急激な変動にも強い企業体質とは『変動費』の占める割合が多い企業なのですが、この件は別途掘り下げていくことにします。

それでは次に、この状況下でどれだけ売上高が低下するのか?を月ごとに少なくとも向こう半年間の試算をしてください。この試算は営業担当者を巻き込み得意先別・月別に精査する必要があります。この見込は楽観過ぎても悲観過ぎてもいけません。できたらこの見込みの数値の是非判断に金融機関の融資担当者の目を入れることも有効です。

この低下が見込まれる売上高の推移を出すことにより、単月では判断できない月次損益の流れとキャッシュフローの推移が可視化できるため、「目指す損益分岐点売上高にするためにはどれだけ費用を減額する必要があるのか?」と「資金をショートさせないためにはいつ・どれだけの資金調達が必要か?」を見極めることができます。

 

3.人件費以外の費用削減策の見極め

費用削減の検討で最初にすべきことは、『固定費』を更に管理可能費と管理不能費に分類する作業です。管理可能費とは文字通り経営の意思で削減が可能な費用のことです。ここでは先入感を捨てて大胆に不要不急の費用はカットしましょう。費用の額の大きな科目からメスを入れるのが効果的です。

更には、管理不能費の中でも交渉してみるだけはすることも必要です。例えば地代家賃の減額交渉などです。

 

4.人件費削減額の見極め

ここまで進めても下げていかなければならない損益分岐点売上高の費用額とするためには更なる費用の削減が必要なはずです。その額を人件費の削減で賄わなければなりません。必要となる人件費削減額をしっかりと見極めましょう。

 

5.役員報酬削減額の決定(時限措置)

いわゆるリストラを進めていくにあたって、真っ先に手を付けるべきポイントが役員報酬の削減です。余談ですが、私の顧問先でも通常から社長の報酬をかなり低く抑えていて少しでも従業員の賃金に還元させたいという優しい考えの経営者もいらっしゃいますが、このような危機対応の時に真っ先に削減できるだけの余地を持った充分な役員報酬としておくことも必要となります。

私の顧問先での事例ですが、リストラが必要なときの役員報酬を50%削減した社長もいらっしゃいました。この削減額(率)は役員報酬の額を考慮して決めてください。最終的には従業員の整理解雇にまで踏み込むのであれば役員報酬に手を付けないということは道義的側面だけでなく訴訟リスクの側面からも許されません。

ただし、役員報酬減額は時限措置で構いません。一定の業績まで回復した際には戻しましょう。

 

6.幹部社員給与の削減額の決定(時限措置)

次に、部長・課長などの幹部社員給与の削減を決めていきます。企業によって管理職の賃金水準は異なりますのでどれくらいとは一概に言えませんが、一例として部長職は一律20%削減・課長職は15%・係長職は10%削減など職位に応じて上位者から多く削減しましょう。

もちろんこの給与削減策も時限措置です。この場合は会社が一方的に決定して実行するのではなく当事者に誠実に説明して同意書を交わす必要があります。

 

7.一時帰休による人件費削減額の見極め

一時帰休による休業手当の支給とそれを補填する雇用調整助成金の受給などを積極的に進めましょう。急激な業績悪化にもかかわらず無策にも従業員を出勤させ(テレワーク含む)無為無策に賃金を垂れ流すことは経営の怠慢でしかありません。

この一時帰休の実施は、時系列でいえば上記プロセスを経て行うのではなく、当初から進めることが重要です。出血を少しでも減らすためには一時帰休実施の判断は早いことが望まれます。

ここでの留意点としては、一時帰休時に労働者が得られる賃金水準(休業手当)をどこに設定するのか?法的には平均賃金の60%で足ることになりますが、ざっくり言って平均賃金の60%とは通常の日割賃金の半分弱にしかなりませんので一時帰休日数によってどこまで生活に支障が及ぶか?を考慮する必要があります。また、これと並行して一時帰休時の会社の持ちだしがどれくらいになるのか?の見極めが必要になります。これは一時帰休で支払う休業手当の額と国から得られる雇用調整助成金の額の差額となります。また、雇用調整助成金受給に時間を要することからキャッシュフローではその点も考慮する必要があります。

 

8.整理解雇で求める削減額の見極め

以上の費用削減策を積上げて、更に求める費用削減額に満たない部分を最終的に整理解雇による人件費削減で行うことになります。

整理解雇でどれだけの額の人件費を削減する必要があるのか?を算定します。

この場合に、一案だけに留めて置かずに想定している収支見込みの進捗状況が更なる底割れした場合に第二案まで想定しておくことをお勧めします。

 

9.整理解雇の実施

リストラの最終手段である人員整理(整理解雇)を進めるにあたっては以下のような手順で行います。

①人員整理対象者のリストアップ

⇒この場合には、これまでの人事評価の結果や本人の生活維持への影響度などを考慮します。

②人員整理の順序を決める

⇒まずは、非正規雇用労働者、次に①でリストアップした対象者の序列によって整理解雇で求める削減額に達するまで人員整理を行います。これを進めるにあたっては初めに人数ありきではありません。

③対象者と個別面談行い整理解雇を通告する

⇒退職金制度があり、整理解雇による退職金上積み策を講じることができる場合にはそれをあらかじめ決めておく必要があります。また、整理解雇とはいえ解雇予告期間が必要となりますので少なくとも30日前までの予告もしくはそれに替えての解雇予告手当の支給が必要になります。

 

最後に、リストラ(整理解雇)を進める際には、誠実に誠意をもって対象者と向き合ってください。

彼らにも生活があり家族があります。あらゆる手を尽くした結果としてやむを得ずリストラ(整理解雇)を進めていく状況を共有してください。

リストラ(整理解雇)を乱暴に進める企業は、残された従業員にも会社への大きな不信感を残すことになり、また、リストラ(整理解雇)された従業員からの恨みを買うことになるからです。綺麗ごとを述べるつもりはありませんが涙を呑んでリストラ(整理解雇)を行い、対象者には出来得る限りの配慮をして差し上げてください。

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